ご挨拶

第4回臨床ゲノム医療学会“水道橋大会”開催にあたって  第4回臨床ゲノム医療学会会長を渥美和彦理事長ならびに理事会からご指名をいただき大変光栄に思っております。と同時に責任を感じております。それは、医療はもとより歯科医療においても本学会の趣旨に準じた「未病へのゲノム検査適用」の普及発展に寄与できるのかということです。今回のプログラムでは、講演者の先生方のお陰で参加者の皆様に刺激的な印象を十分持っていただけると思っております。あとは当日の運営に齟齬ないように努めたいと組織委員会一同心しております。

 この水道橋は、江戸時代の武家屋敷地域でした。ここには口中医がいたでしょう。そして、それを取り巻く日本橋、銀座、馬喰町そのほか町人の地域に行きますと、大道で香具師が居あい抜きやこま廻しを見せながら歯抜きをし、薬を売っていたでしょう。殆どの町人はその賤業の輩に口の処置をしてもらっていました。なにしろ歯は抜け換えるのもあわせると50本以上にもなり、そのうちどこかは具合が悪くなるのは自然でした。したがってそのニーズには由緒正しい医師はマンパワーからでもとても対応できなかったと考えられます。そして幕末には、開港地の横浜に米国からの歯科医師が診療を始め、そこで習得する日本人も育ちました。徳川幕府が幕を閉じ、明治政府は近代社会へと時代を強引に展開させます。明治7年に医制が公布され試験制度になりましても明治16年まで歯科は医科の一科でした。つまり、歯科医は医師の免許でした。新時代になりあらゆる武士が失業するのですが、薩長武士のように官吏や警察官など幸いに新しい仕事に就けるのは僅かでしたので、「武士は食わねど高楊枝」という言葉もでてきます。

 しかし、中には未来を夢見て米国に渡った人々もいました。その一人に歯科医師養成機関を創立した高山紀齋がおりました。高山は岡山藩武士でしたが7年間の在米中に米国の歯科医学を学び米国の開業医資格を持って明治11年に28歳で帰国しました。高山は、銀座開業で成功し、明治23年に40歳にして高山歯科医院を新設します。これが現存する最古の歯科医学校として東京歯科大学のルーツであります。10年後に高山紀齋は、彼の歯科医学校を卒業して間もない同校の教員をしていた血脇守之助に委譲し、血脇は東京歯科医学院と改名し、芝伊皿子からこの水道橋に学校を移します。血脇は野口英世の後援者として世に名を残していますが、歯科にあっては歯科医療制度と歯科医師の社会的立場を確立・発展させることに生涯を捧げた先導者でした。余談ながら歴史学者の磯田道史教授のご先祖岡山藩上級武士磯田軍次兵衛は高山の叔父にあたり高山に儒学を教えたと言われています。

 くどい話になったことをお許しいただきますが、これからが私のご挨拶であります。
 上述の高山も血脇も叫んでいたことがあります。それは、歯科は科学だと叫んで、世間の悪印象と戦っていました。入れ歯も歯を治すのも技術が必要だが、それは食べるための手段で、細工師のように作れば終わりということではない。その先には人間の健康という大きな目標があるのだと叫んでおりました。

 あれから100余年、科学の最先端情報をあらゆる領域の垣根をなくして健康に寄与させる時代が到来しています。大正中期から第二次世界大戦敗戦までの大学、専門学校という一流二流の二重構造育成制度を経て、戦後一変した教育制度は70年になろうとしています。今日、ゲノムという共通言語が医歯薬そして基礎医学が同じ土俵で臨床のために語れる場面をこの血脇記念ホールで持たせていただきました。貴重な機会であります。

 特別講演に池川志郎先生に「骨関節疾患を例にとりまがらゲノムから疾患の性格を解明する」、坪田一男先生に「長寿になるための遺伝子鍛錬」と2題のお話をいただきます。加齢でも疾患でもロコモーションが弱ると他の機能はドミノ倒しになりがちですので健康寿命の延長策を取り入れてぴんぴんコロリに繋がると思います。三宅養三先生には医科大学理事長のお立場から「日本の医科大学におけるゲノム医療の現状と将来への期待」、そしてその一環として福沢嘉孝先生が「受診者の意識を変えていくことから行動を変える方策で新しいゲノム検診システムを構築する」というゲノム検査普及策をお話いただきます。そして、ゲノム基礎研究者でいらっしゃる池田和隆先生の「歯科医療でゲノムはどのように展開していくか」の後にすぐ高柴正悟先生から「歯周病予防が健康寿命にどう影響するのか」を基調講演で一セットとし、「ゲノムを歯科医療にどう生かすか」というシンポジュウムに繋がるよう企画しました。村辺 均先生から「開業現場から何のゲノムを指標にしたら良いのか」と身近かな課題を提示していただいた後に、「歯科医療でのゲノムの現状」を福田謙一先生が「痛み」を中心に、片倉 朗先生が「唾液と口腔がん」におけるゲノム、西村 仁先生が「咬合療法での効果をRNAからどのように評価できるか」となっております。

 さらに、西鋭夫教授からコメントをいただきます。TPPが卑近な問題となっていますがグローバル化の時代においては、医療も医療人育成も例に漏れません。歴史学者の視点でこの点での日本の今後をお話いただきます。

 ご参加いただいた皆様に本学会の趣旨の一端が通じ、皆様の臨床・研究とうにお役に立てれば準備委員会一同の喜びであります。 


予定講演者・予定プログラム

09:30〜09:40

理事長・大会長開会挨拶

渥美 和彦 先生(学会理事長、東京大学名誉教授)
金子 譲  先生(東京水道橋大会 大会長、東京歯科大学 名誉教授)

09:40〜11:00

基調講演【座長】井上 孝 先生(東京歯科大学臨床検査病理学講座 教授)

09:40〜10:20
①池田 和隆 先生(公益財団法人東京都医学総合研究所 参事研究員)
『歯科とゲノム医療』

10:20〜11:00
②高柴 正悟 先生(岡山大学病態機構学講座 歯周病態学分野 教授)
『歯周病予防による健康寿命延伸の展望』

11:00〜12:00

特別講演【座長】新谷 誠康 先生(東京歯科大学小児歯科学講座 教授)

池川 志郎 先生
(独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム チームリーダー)
『ゲノムからの疾患の解明-骨関節疾患を例に』

12:00〜13:00

昼食休憩

会場周辺のランチマップ

13:00〜13:40

会員講演【座長】外山 雅章 先生(医療法人鉄焦会 亀田総合病院心臓血管外科 顧問)

三宅 養三 先生(愛知医科大学 理事長)
『日本の医科大学とゲノム医療』

13:40〜14:20

会員講演【座長】水島 洋 先生(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター 上席主任研究官)

福沢 嘉孝 先生(愛知医科大学大学院医学研究科 医学教育センター センター長・教授)
『意識付けと行動変容を考慮したゲノム検診システムの構築』

14:20〜14:30

休憩

14:30〜16:00

シンポジウム
「歯科治療における遺伝子情報は予防・治療にどう活かされるか」
【座長】渥美 和彦 先生 / 亀井 英志 先生(長栄歯科クリニック 院長)

【シンポジウム講演】

村辺 均  先生(三友歯科医院 院長)
『歯科の再生医療予防におけるゲノムの有用性を考える』(10分)

福田 謙一 先生(東京歯科大学 歯科麻酔科 准教授)
『歯科におけるゲノム医療の現況と今後の展望』(20分)

片倉 朗  先生(東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座 教授)
柴原 孝彦 先生(東京歯科大学口腔外科学講座 教授)
『口腔癌の予後と早期発見のためのゲノム解析によるバイオマーカーの検討』(20分)

西村 仁  先生(西村歯科医院 院長、BBO研究会医科歯科連携担当)
『ゲノムRNA診断によりBBO(咬合)療法はどのように評価されるのか?』(20分)

【シンポジウム(20分間)】

16:00〜16:20

レクチャーコメント【座長】岡村 興一 先生(オカムラ歯科医院 総院長)

西 鋭夫 先生(スタンフォード大学 フーヴァー研究所 教授)
『日本の医療に対する期待と展望』

16:20〜16:30

休憩

16:30〜17:20

特別講演【座長】金子 譲 先生(東京歯科大学 名誉教授)

坪田 一男 先生(慶応義塾大学医学部眼科教室 教授)
『長寿遺伝子を鍛える』